これまでの医学・医療貢献により、日本人は平均して長生きをするようになり、超高齢化の時代を迎えるに至った。そして、日本の医療は「出来高払い《であり、昭和45年に始まる新設医科大学の急増による医師過剰時代を迎え、高度医療の進歩に伴い、総医療費が増大し、医療費抑制の時代が訪れた。また一方で、日本の産業基盤変化の時代に至り、21世紀の基幹産業は「情報産業、医療福祉関係である《と言われる時代が到来している。この流れは平成2年4月、医療構造改革に始まり、在宅医療の方向を模索する「訪問看護《が解禁になり、この後、在宅医療が始まり、過去の「保健・医療《は「保健・医療・福祉・介護《に分割される時代となった。この流れは「医師が人の命を守る《と言う主旨は変わらないが、主導権が医師の手を放れてつつあることを意味しており、今後人命に対する責任の所在問題が起こってくると考えられる。
この流れとは別に、この10年間、コンピュータ技術革新が続き、安価なパソコンがネットワーク・ワークステーションとして使える時代が到来している。
2)医療費の効率的運用
厚生省は「医療費の効率的運用《という吊目で、医療のランニングコストを下げようとしている。この流れについて、私見を述べる。
以前の医療は、大学医学部・大学付属病院を頂点に、大病院・中小病院・診療所というピラミッドを形成していた。それが現在、大学病院は「特定医療機関《と吊前を変え、3次救急・医学教育の場と変化し、大病院は「高機能病院・地域支援病院《と吊前を変え、1・2次救急と急性期医療の場、入院機能を分担する場と変化しつつあり、中小病院は「長期療養型病床群《と吊前を変え、福祉・介護の場としての意味を持つに至り、診療所は在宅医療と外来医療の場と変化しつつある。これは、今まで別個に存在し、クラス別に分かれていた医療組織が統廃合され、外見的には1つの医療組織として扱われる時代になることを意味している。つまり、地域支援病院は「救急・急性期の入院医療《を機能分担し、長期療養型病床群は「慢性期の入院医療《を機能分担し、診療所は「外来医療・在宅医療《を機能分担することになる。
その結果として、総ての医療機関が、相互に連携医療を行える事ができれば
「国内の医療機関が、幾つかの医療組織モデルに、当てはることができる《
という方向に進んでいると思われる。この結果、医療費抑制が実現すと考えられ
ている。
この時に重要な事は、物理的に離れた所に存在する医療機関の連携である。つまり、病病連携、病診連携、診診連携が実現することが最低条件になり、様々な情報を共有しながら連携医療を実現する必要がある。このため現在、「電子カルテ《の開発ラッシュが訪れている。そして、病院レベルの電子カルテは概要が纏まりつつあるが、診療所レベルの電子カルテは無形である。しかし、電子カルテに求められる機能は、病院レベルの方がバラエティーに富み作りにくく、診療所の方が作りやすいと考えられる。
3)診療所の電子カルテの目的
診療所の電子カルテの目的は
医療構造改革が進んでいった時に、診療所が果たすべき機能は何であろうか。
患者サイドから医療を見たとき、幾つかのニーズが存在する。いつか病気にかかった時、その人の病歴・体質・家族背景等を理解している人、病気を合理的に治す方法の選択にコメントをする人、実際に治療する人、沢山の情報を整理して病気と付き合うことになる。これをまとめると、
今後、診療所の求められる機能は「かかりつけ医機能《であり、患者の病歴等に対する合理的かつ的確なコメント機能が重要である。そして、これを実現するのが診療所の電子カルテである。そして、かかりつけ医は必ずしも一人とは限らず、複数の専門医集団であった方が医療の偏りを回避できるので良いが、一人の患者さんに必要なだけ専門家集団がチームを組んで診療を行う形になると「誰が主導権を持って診療の方向を決めるのか《という問題が起こってくる。しかし、この様な連携医療が必要な時代に到達している。この連携医療を行うための道具が電子カルテである。
4)診療所の電子カルテの機能
現在の法律では「カルテは紙に記載されている《という「可視性《を求められているが、ネットワークの進歩により、紙だけに限定される必要が無くなり、それなりの医療担保が保証されるシステムができれば、電子化するメリットが大きくなると考えられる。その時に診療所の求められる機能は
5)診療所の電子カルテのセキュリティー
電子カルテの議論でいつも問題になるのが「改竄《「秘密の漏洩《である。秘密の漏洩に関して、絶対的に完全なシステムは存在せず「どうしても秘密を守る必要のある情報は、ネットワークの上に置かない《という原則を守るべきである。そして「最悪の場合、秘密が守られない場合がある《という事を説明・同意を得た情報を電子カルテに記載する事になる。つまり、原則、公開可能な情報を電子カルテに載せて、情報を共有するべきである。非公開の情報は各自で秘密専用の手帳でも作って金庫の中に保管するしか方法はないと思う。
とは言うものの、改竄プロテクト、暗号化、個人認証、等を含めた基本的なセキュリティーは確保される必要はある。そのためには個人認証システムが必要で医師免許のカード化が必要になり、このカードに保険医情報、認定医情報、等の各種の認証に必要な情報を載せることになる。そして、このカードの扱いを厳重にすることが医師の勤めの1つになる。
6)基本情報単位データベース(RUデータベース)
電子カルテにおいて、
BRUデータベースは個別の内容を管理するべきではなく、各医療機関に存在する電子カルテに分散されたBRUのインデックスになるべきである。この方法を取ることにより情報の所在地を参照できるようになる。このため電子カルテはBRUを束ねたものとして存在する必要がある。また、これにより、診療所が自前で電子カルテサーバーを用意する絶対的な必要性はなくなり、ネットワークの上にデータベースを置いておけば良いことになり、電子カルテを外部に存在する業者に運用を任せる選択肢ができる。そして医療担保の部分も業者に責任を負わせ保証するシステムを作る選択肢も作れる。
また、デジタル画像データの発生源は、デジタルデータを作ることのできる機器を有している医療機関に任せ、無床診療所のように高額な医療機器を有しないところはデジタルデータを活用する事に専念すれば良いと思う。そして、「デジタル画像《も「読影結果:テキスト《も同等の立場で扱える関係とする必要がある。つまり、読影された所見は医師の診断であり、その診断根拠を提示しているか、していないかの違いであり、診断結果という本質に何ら影響しないものである。そして必要になればオリジナルデータを公開する形で診断の正当性を主張するべきである。
蛇足ではあるが、BRUはシステムの最終的な形であり、ネットワーク化初期の段階からBRUを導入することには無理が多いので、BRUを念頭に置いて電子カルテの構築をするべきである。
7)基本情報単位の管理
ネットワーク上でリソースを管理する時の基本は(平常時)
8)あとがき
以上、簡単に診療所の電子カルテに関する概要を述べた。上記以外にレセプト電算処理機能が必要であったり、カルテ記入に関する機能が必要であるが、今回の目的は電子カルテの概要を述べるのが目的であり、その他の詳細は別の機会にゆずる。
1998年2月12日 プーケット島にて BIRD